カタヨリ紙

終電前のブンガク雑談サイト 

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

L-F・セリーヌ 『なしくずしの死』

みんなまたひとりぼっちだ。こういったことはみんな実にのろくさくて、重苦しくて、やり切れない……やがて私も年をとる。そうしてやっとおしまいってわけだ。たくさんの人間が私の部屋へやって来た。連中はいろんなことをしゃべった。大したことは言わなかった。みんな行っちまった。みんな年をとり、みじめでのろまになった、めいめいどっか世界の片隅で。(『なしくずしの死』上/L-F・セリーヌ)

これは凄い小説。
『夜の果てへの旅』より凄い小説。
印刷された文字が、紙の上で蠢いている。這いつくばっている。体に穴が開いたみたいに、そこから世界が覘いて見える。クソがつくほど真面目に世界を嘆き、愛している。お上品な人々が、口先だけで愛を語り、世界を嘆いて見せるのとはわけが違う。まず第一に、彼は世界と運命をともにしている。その覚悟がある。その覚悟、ハンパな根性じゃできないだろう。バカじゃないかぎりは予想がつくわけだ。お上品な人々の口がどう動くかなんて容易に想像がつくわけだ。しかしそんなものはクソくらえ! というわけだ(笑)なにしろ『なしくずしの死』、あまりに露骨な性描写に伏字が約40ヶ所もあるという。出版者のドノエルが、書き直してほしいと要求したら、「いやだ」と言ったらしい。それで伏字である。

「批評家たちは、常識を無視した大胆な卑俗言語で語られる糞尿とへどと精液にまみれたこの伏字だらけの絶望の世界にたじろぎ、口を揃えてこれを論難した。(略)描かれた世界のあまりの希望のなさを、当時の批評家たちは許容できなかった。それは許されざる文学及び社会の良俗侵犯だったのである。(略)したたかなシニスムとユーモアに包まれたこの作品の暗さが、地に呪われた者たちへの、貧困と悲惨にあえぐ虐げられた者たちへの作者(※セリーヌ)の限りない共感であり、彼らを地に這わせておくこの世界のあらゆるものに対する底知れぬ怒りであることが、分からなかった、いやむしろ、それは分ってはならないことだった。秩序維持のためには、これは抹殺すべき本であった(解説より引用、以下同じ。※は私)」

「私の本がどうだって言うんだ。あれは文学の本じゃない。じゃあ何かって? あれは人生の本さ、ありのままの姿の人生の本さ。人間の貧困が私を圧倒するんだ、物質の貧困だろうと精神の貧困だろうと。そりゃ、貧困はいつの時代にだってあった。だが昔は人間はそいつを神に捧げた、どんな神であろうと。今世界には数え切れないほどの貧乏人がいるけど、彼らの悲しみはどこへも行き場がないんだ。現代は、そもそもどうしようもない悲惨の時代なんだ。哀れなことだ。人間は何もかも、自分に対する信念さえも剥ぎ取られて、素っ裸なんだ。それさ、私の本てのは。[……]文学なんぞ、人々を“へし”つけている貧困の前ではどうでもいいことさ。連中はみんな憎み合っているんだ……連中が愛し合うことさえできたら!(『夜の果てへの旅』出版直後のインタヴュー)」

暗い世界よりも、明るい世界のほうがいい。それに違いはない。ネガティブよりも、ポジティブのほうが良いという社会通念も、あながち間違いじゃない。しかしそれでは取りこぼしてしまうに違いない。現実を見る。そのなかに突入していく。セリーヌはひかえめに文学ではないと言っているが、まさにそれこそが、現実に突入していく姿勢こそが、文学が担う分野であったはずだ。いや表現活動すべての心構えであったはず。痛くも痒くもない自己愛製造機と化してしまった表現物など、ガラスケースにきれいに並ぶ、あれでもよいし、これでもよい、ようするに人生にはなんの関係もない消費物でしかありえない。目を閉じさえすればいい。そうすれば世界の向こうがわ。けれど世界は、目を閉じても尚もしぶとくそこにある。そして誰かをぶちのめしている。セリーヌは医師でもあった。貧しい街の人々を診た。目をそむけようにも背けられない現実が、彼の日常に染みついてしまったのだろうな。余談だが、彼の家族写真が載っている本を見た。気のいい、オヤジだった(笑)

『夜の果てへの旅』過去記事

【 ご紹介した本 】
なしくずしの死〈上〉なしくずしの死〈上〉
ルイ‐フェルディナン セリーヌ Louis‐Ferdinand C´eline 高坂 和彦
河出書房新社 2002-03
価格 : ¥1,365
おすすめ平均
Amazonで詳しく見る
by G-Tools


なしくずしの死〈下〉なしくずしの死〈下〉
ルイ‐フェルディナン セリーヌ Louis‐Ferdinand C´eline 高坂 和彦
河出書房新社 2002-03
価格 : ¥1,365
おすすめ平均
Amazonで詳しく見る
by G-Tools

Info
ブログ拍手ありがとうございます。 このサイトは引越しました。文学の他に、韓国映画ドラマ、音楽、DIYなど、より雑多になって、のんびり続けています。
新サイト→ コドリバ
Search
Category
Links
AmazonSearch
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。