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『生きがいについて』 神谷美恵子

平穏無事なくらしにめぐまれている者にとっては思い浮かべることさえむつかしいかも知れないが、世のなかには、毎朝目がさめるとその目ざめるということがおそろしくてたまらないひとがあちこちにいる。ああ今日もまた一日を生きて行かなければならないのだという考えに打ちのめされ、起き出す力も出て来ないひとたちである。(8p)
この文章から、『生きがいについて』は語られていく。
1953年、らい予防法が制定され、悲痛、絶望、差別、断種などを経験したあと、1996年に同法が廃止されてもなお“らい”と呼ばれた人々の生き地獄は続いている。一般のホテルへの宿泊が拒否された、高齢かつ身体病弱のため療養所から出られない、いまでも親戚が帰って来てくれるなと言う…、神谷美恵子が残した精神は、新しいままに必要とされている。こまやかな心づかいと幅広い引用によって形成するハンセン病の人々との向き合いは、ズシリと重い言葉の数々、心の問題が声高にさけばれる昨今の、導きの書と言っても過言ではない。それだけ彼女の向き合い方は、純真にひたむき、だったのである。

なにを望んだわけでもないのに、苦しみは向こうからやってくる。
なにをしたわけでもないのに、喜びは訪れる。
因果を説いて聞かせても、その枠内に納まりきれない何かがあって、その何かを漠然と模索しつづけていた頃、神谷美恵子のこの書に出逢った。私はいまでも足を向けて寝られない。書物に線を引いて読むことはないが、この書だけは別だ、開けば、あの当時の記憶とともに、わんさかと引いた線が、目にとびこんでくる。いくつか、抜き出してみたいのですが…。

職の有無を問わず、生きがいをうしなったひとは、すべて人生からあぶれた失業者であるといえる。(略)彼はただ、自分の存在はだれかのために、何かのために必要なのだ、ということを強く感じさせるものを求めてあえいでいるのである。(128p~)

苦悩をまぎらしたり、そこから逃げたりする方法はたくさんある。酒、麻薬、かけごとその他。仕事に異常に没頭することもその一つであろう。しかしただ逃げただけでは、苦悩と正面から対決したわけではないから、何も解決されたわけではない。従って古い生きがいはこわされたままで、新しい生きがいはみいだされていない。もし新しい出発点を発見しようとするならば、やはり苦しみは徹底的に苦しむほかないものと思われる。(95p)

たとえ宿命的と形容されるような苦境にあっても、いっさいを放り出してしまおうか。放り出そうと思えば放り出すこともできるのだ。放り出して自殺やその他の逃げ道を選ぶこともできるのだ。そういう可能性を真剣に考えた上でその「宿命的」な状況をうけ入れることに決めたのならば、それはすでに単なる宿命でもなく、あきらめでもない。一つの選択なのである。(53p)

人間の意志を越えた力があるひとの生活史に作用するとき、それがどのような意味を持つかということは、そのひとがそのことにどのような意味を持たせるかということでもある。つまりこれは、そのひとの独特の創造であるともいえる。(75p)

かわいそうなハンセン病の人々へ向けて書かれた書物なのでしょう?
などという勘違いはものの見事にひっ剥がされる。
同じことなのだ。生きがいを失った人、死ぬほど苦しい人、それこそ「起き出す力も出て来ないひと」、神谷美恵子はそういう人々へ向かって辛抱強く語っている。ハンセン病の人も、私も、あなたも、同じことなのである。しかし当時はそこまで考えられなかった。ハンセン病の人々をとおして自分を見ていた。あれから十数年経って、ようやく神谷美恵子の言葉が熟成され始めたのか、別の角度からも見れるようになった。それともうひとつ、この記事を書くのに今回ざっと目をとおしてみたが、神谷美恵子の世界へのフォーカスの定め方、私はそれに、だいぶ影響を受けている、ということに、気がついた。そこに書かれていることだけではない、世界をこう見てみれば、また違ったふうに見えてきますよと、見方の根もとから教えてもらったのだろう、今になってそのことに気づく、ほんとうに、足を向けて寝られない書物なのである。

ハンセン病について
神谷美恵子について

生きがいについて
神谷 美恵子 柳田邦男・解説

4622081814

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