カタヨリ紙

終電前のブンガク雑談サイト 

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『懶惰の歌留多』 太宰治

怠惰ほど、いろいろ言い抜けのできる悪徳も、少い。(略)
苦しさだの、高邁(こうまい)だの、純潔だの、素直だの、もうそんなこと聞きたくない。書け。落語(らくご)でも、一口噺(ひとくちばなし)でもいい。書かないのは、例外なく怠惰である。
新樹の言葉『懶惰の歌留多』太宰治/新潮文庫14頁~

しょっぱなから耳の痛い引用となった、笑。
青空文庫でも読めるので、お時間のある方はどうぞ。

太宰と言えば、人間失格、斜陽、富嶽百景、走れメロスが有名だ。
他に、桜桃、女生徒、津軽、トカトントン、川端康成へ、なども取り上げてもらえる機会が多いと思う。
むしゃぶり付くようにして読み継いでいけば、はたして太宰治という作家はどのような書き手だったのか、ふり返り、目眩がする。代表作だけ読めば、もっと簡単に言えるのだろうけれど…。


引用した『懶惰の歌留多』は自己批判のあとに、いろは歌留多を模した掌編が並べられていく。その直前にこういう文章が入る。

つくづく呆(あき)れ、憎み、自分自身を殺したくさえなって、ええッ! と、やけくそになって書き出した、文字が、なんと、
懶惰の歌留多。
ぽつり、ぽつり、考え、考えしながら書いてゆく所存と見える。(19頁)

まるで今思いついて書き出したかのようだが、解説の奥野健男さんによれば、「『晩年』を編集するとき焼捨てた多くの習作の紙袋の中から救い出した何篇かと、その後の掌編をあわせて編集したものであろうと」、井伏さんが筑摩書房版全集の月報に書かれていたのだそうだ。ここでは、「に」を引用してみる。

、憎まれて憎まれて強くなる。
純粋を追うて、窒息するよりは、私は濁っても大きくなりたいのである。いまは、そう思っている。なんのことは、ない、一言で言える。負けたくないのである。(23頁)

負けたくないと言った太宰は31歳だった。
左翼運動と麻薬中毒、自殺未遂の「前期」から這い上がり、井伏鱒二や友人たちに助けられて平凡な小市民として健康的な小説を書こうと努力した「中期」にあたる作品群の始まりとなるのが、この『新樹の言葉』に多く収められている。ざっくばらんな太宰に出会いたければ、ここがオススメ。みんなの知っている太宰とは印象が違うのじゃないかな。技術的にも注目すべき点が多い。職業作家として出直そうと決意した時期もあったのだ。『懶惰の歌留多』は紹介してもらえる機会が少ないので、私が紹介した、笑。

いま読み返してみても、いい文章を書いている。
やっぱり、いいなぁ、太宰は。
「に」の続き↓

私は盗賊のふりをした。乞食(こじき)の真似をさえして見せた。心の奥の一隅に、まことの盗賊を抱き、乞食の実感を宿し、懊悩転輾(おうのうてんてん)の日夜を送っている弱い貧しい人の子は、私の素振りの陰に罪の兄貴を発見して、ひそかに安堵(あんど)、生きることへの自負心を持って呉れるにちがいない、と信じていた。ばかなことを考えていたものである。たちまち私は、蹴落された。審判の秋。私は、にくしみの対象に変化していた。(略)
ふと眼をさますと、部屋は、まっくら。頭をもたげると枕もとに、真白い角封筒が一通きちんと置かれてあった。なぜかしら、どきッとした。光るほどに純白の封筒である。キチンと置かれていた。手を伸ばして、拾いとろうとすると、むなしく畳をひっ掻いた。はッと思った。月かげなのだ。その魔窟の部屋のカアテンのすきまから、月光がしのびこんで、私の枕もとに真四角の月かげを落していたのだ。凝然(ぎょうぜん)とした。私は、月から手紙をもらった。言いしれぬ恐怖であった。
いたたまらず、がばと跳ね起き、カアテンひらいて窓を押し開け、月を見たのである。月は、他人の顔をしていた。何か言いかけようとして、私は、はっと息をのんでしまった。月は、それでも、知らんふりである。酷冷、厳徹、どだい、人間なんて問題にしていない。けたがちがう。私は醜く立ちつくし、苦笑でもなかった、含羞(がんしゅう)でもなかった、そんな生(なま)やさしいものではなかった。唸(うな)った。そのまま小さい、きりぎりすに成りたかった。
甘ったれていやがる。自然の中に、小さく生きて行くことの、孤独、峻厳を知りました。かみなりに家を焼かれて瓜(うり)の花。その、はきだめの瓜の花一輪を、強く、大事に、育てて行こうと思いました。(25頁~)


Info
ブログ拍手ありがとうございます。 このサイトは引越しました。文学の他に、韓国映画ドラマ、音楽、DIYなど、より雑多になって、のんびり続けています。
新サイト→ コドリバ
Search
Category
Links
AmazonSearch
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。