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小説(日本文学) Archive
『重力のお友だち』 よこい隆
- 2007-05-17 (Thu)
- 小説(日本文学)
宇宙は丸いんだぜ、と、カズくんが言った。コータロウが、奥歯を打ち鳴らした。二回。コツンンン、コツンンン……。コツという音が、自分の中から外に零れていく。ンンンは、頭の、中と外の中間あたりに響いている。頭蓋骨が、震えている。
左手に持った地球儀を、右掌で勢いよく回しながら、「でも、宇宙の丸さってのは、四次元的な丸さなんだ」カズくんが言う。「地球は丸いだろ。だから、ずっとまっすぐ歩いてればさ、いつの間にか、もとのところに帰ってくるんだよ。宇宙もそれとおんなじ。ずうっといくと、出発したところにもどってくるんだ」
三面鏡に向かっていたコータロウのお母さんが、鏡のなかから、カズくんの手許を見、「どうしたの、それ?」と訊いた。太陽が、傾きかけたとはいえ、まだ赤くもない時間なら、お母さんの瞼は青すぎたけれど、出勤用の化粧を終えたその顔が、コータロウは嫌いではない。綺麗だと思う。
『肉片柳絮』 よこい隆
- 2007-01-06 (Sat)
- 小説(日本文学)
「ここにあなたがいて、あたしを見ています。あたしは、見られて、あとできっと、あなたの眼で、今のあたしを見ます」
この小説は、週刊誌で語る評論家の顔して、“現代”を傍観しているわけではなかった。ちょっと説明がつかないほどに、“現代”を形作る要素が、ほとんど未整理のままに、強烈に放たれている。私なりに、いくつかの要素を拾ってゆきたいが、その前に、この小説、どんな話なのか、文学界に掲載されたらしい勝又さんの評を、無断で作者のサイトから、コピーしてみる(問題がありましたら削除します)。
この小説は、週刊誌で語る評論家の顔して、“現代”を傍観しているわけではなかった。ちょっと説明がつかないほどに、“現代”を形作る要素が、ほとんど未整理のままに、強烈に放たれている。私なりに、いくつかの要素を拾ってゆきたいが、その前に、この小説、どんな話なのか、文学界に掲載されたらしい勝又さんの評を、無断で作者のサイトから、コピーしてみる(問題がありましたら削除します)。
太宰治の桜桃忌です。
- 2006-06-19 (Mon)
- 小説(日本文学)
昭和11年。太宰は熱海に居た。
お金を届けてほしいと、檀一雄に連絡を入れた。
檀は初代(内妻)から七十数円を預かり、熱海へと。
そのまま二人は小料理屋へ。
食べたら舌が抜けそうなほどに高価な天ぷらを食べ、かるく三日間飲み明かし、ついでに遊女とも遊んでしまい、気がつけば、お勘定は、三百円。たったの三日間で、七十数円が、三百円にまで膨れ上がってしまった。
お金を届けてほしいと、檀一雄に連絡を入れた。
檀は初代(内妻)から七十数円を預かり、熱海へと。
そのまま二人は小料理屋へ。
食べたら舌が抜けそうなほどに高価な天ぷらを食べ、かるく三日間飲み明かし、ついでに遊女とも遊んでしまい、気がつけば、お勘定は、三百円。たったの三日間で、七十数円が、三百円にまで膨れ上がってしまった。
『薔薇のように』 納富泰子
- 2006-05-26 (Fri)
- 小説(日本文学)
眠気がさすように静かで、日の長い植物園なんだよ。
夢を見ているうちに、昨日までの一日、一日が、切り離されては、遠くに落ちていくんだ。
寂しい場所にある廃墟同然のアパートに、私は横たわっていたわ。深夜の暗さを吸いこみながら苦しい夢からめざめ、そのたびに、なぜ生きてめざめるのか、と涙を流した。(『文学界6月号』189p〜)
夢を見ているうちに、昨日までの一日、一日が、切り離されては、遠くに落ちていくんだ。
寂しい場所にある廃墟同然のアパートに、私は横たわっていたわ。深夜の暗さを吸いこみながら苦しい夢からめざめ、そのたびに、なぜ生きてめざめるのか、と涙を流した。(『文学界6月号』189p〜)
小島信夫 『殉教/微笑』
- 2006-05-21 (Sun)
- 小説(日本文学)
「首をきるのはなかなかむつかしいでしょう?」
「いや、それは腕ですし、何といっても真剣をもって斬って見なけりゃね」
「何人ぐらいやりましたか」
「ざっと」彼はあたりを見廻しながら言った。「二十人ぐらい。その半分は捕虜ですがね」
「アメさんはやりませんでしたか」
「もちろん」
「やったのですか」
「やりましたとも」
「どうです、支那人とアメリカ人では」
「それやあなた、殺される態度がちがいますね。やはり精神は東洋精神というところですな」
「それでよくひっかからなかったですね」
「軍の命令でやったことです」(略)
とたんに山田の浅黒い顔の中でよくしまった口がゆがみ口惜しそうな表情になった。
「どうです、このざまは、これが戦争中の行軍だったら……これが教師なんだからな」(『アメリカン・スクール』195p〜)
「いや、それは腕ですし、何といっても真剣をもって斬って見なけりゃね」
「何人ぐらいやりましたか」
「ざっと」彼はあたりを見廻しながら言った。「二十人ぐらい。その半分は捕虜ですがね」
「アメさんはやりませんでしたか」
「もちろん」
「やったのですか」
「やりましたとも」
「どうです、支那人とアメリカ人では」
「それやあなた、殺される態度がちがいますね。やはり精神は東洋精神というところですな」
「それでよくひっかからなかったですね」
「軍の命令でやったことです」(略)
とたんに山田の浅黒い顔の中でよくしまった口がゆがみ口惜しそうな表情になった。
「どうです、このざまは、これが戦争中の行軍だったら……これが教師なんだからな」(『アメリカン・スクール』195p〜)
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